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研究テーマ・14(全段無帰還形型インテグレーテッドアンプ)

研究名 全段無帰還形型インテグレーテッドアンプ
研究終了 2022年6月

内容説明

電圧負帰還(NFB)を全く掛けないプリメインアンプ(インテグレーテッドアンプ)を作ってみようと思い立ち、出来上ったのがトップの写真です。

 

これを紹介する記事がMJ無線と実験の2022年8〜11月号に連載されました。

 

  

 

この為、完成形の紹介は無線と実験に譲り、こちらでは開発のポイントと裏話を紹介することにしました。

 

無線と実験の該当号と突き合わせてご覧頂ければ幸いです。

 

 

☆.負帰還の問題点

 

筆者はその昔、負帰還(NFB)型メインアンプの超高域周波数特性の測定をしたことがあります。

 

次にその時のデータグラフを掲載します。

 

 

500kHz台を拡大した右側の図で、特性に波があります。

 

このアンプが仮に出力50Wとすると利得は24〜26dBと推測しますので、波のある部分ではマイナス利得であり、発振はしないと考えられます。

 

実は、この様なカーブを描くのは増幅には遅延時間があり、このアンプの場合は約550kHzより少し高い周波数で、その半サイクル分に当たる約0.8μS程度遅れてNFBがかかる為なのです。

 

話しを簡単にするために0.8μSの遅れがあるという事にします。

 

0.8μS遅れるという事は625kHzで位相が180度回るという事で、可聴周波数ではNFBなのですが、この付近ではPFB(正帰還)になってしまうのです。

 

PFBになれば、利得は上昇する筈ですから、この様なカーブを描くのは理解出来ると思います。

 

もうひとつはNFBが約0.8μS遅れるので、NFBのかかっていない音を約0.8μS間、聞かされているという事です。

 

聞き慣れてくると特に打撃音のような音の場合に、そういう音が聞こえるのが分かるようになると思います。

 

仮に40dBのNFBがかかっているとしたら、40dB=100倍大きな音が0.8μS間聞こえている、アンプから出ている筈なのです。

 

 

 

☆.無帰還アンプ

 

上記の問題点を解決するためにはNFB型アンプと同様の構成の無帰還アンプを作ってみるしかないと考えました。

 

また、そういうアンプを常用アンプにしたいと思いました。

 

ところで、今迄発表された無帰還アンプを見ると以下の問題点がありました。

 

@.反転アンプが多く、スピーカー接続に注意が必要。

 

A.ボリューム位置によりF特が変わり、高域再生が不十分なことが多い。

 

B.メインアンプだけの設計が多い。

 

 

☆.設計方針

 

以上を踏まえ、以下を基本としながらMCカートリッジ用の入力からスピーカー出力までの増幅をするインテグレーテッドアンプを作ることにしました。

 

@.利得60dB(0.15mV→150mV)のMCダイレクトイコライザーを同相(非反転)アンプで作る。

 

A.利得18.4dB(150mV→1.25V)のAUX入力、プリアンプ出力の同相(非反転)中間アンプを作る。

 

B.利得24dB(1.25V→50W/8Ω)の同相(非反転)メインアンプを作る。

 

C.各アンプはF特十分な固定利得とし、音量調整は通常アンプと同じく、中間アンプの前にボリュームを入れる。

 

 

☆.開発製作はメインアンプから

 

先ず、メインアンプを作る事にしました。

 

回路の構成は次の図のようにしました。

 

 

1.2段増幅型

 

@.2段増幅型にすることで入出力間を同相(非反転)アンプにしました。

 

A.電圧NFBをかけないで低歪率を目指す為に基本的にP型とN型の対称型(相補型)にしました。

 

B.初段はDC入力が可能なようにローノイズのJ−FETを使い自己バイアス型にしました。

 

C.通常2段アンプでは仕上り利得が過剰になるので、初段の次にATTを入れて減衰させ、利得を調整しながら後段へ向けて電圧のシフトが出来るようにしました。

 

D.ATTを高インピーダンスで受けながら後段へつなぐためにエミッタ―フォロアー(以下、エミホロ)を入れました。

 

E.後段は高hfeでローノイズのTRを使い、同時に大出力を確保するために電流は多めにしました。

 

 

2.3段ダーリントンの電力増幅

 

@.電力増幅はコンプリメンタリーの合計3段ダーリントンにして非線形負荷による歪みの発生を軽減しました。

 

本当は4段にしたかったのですが、今回は3段が精いっぱいでした。

 

次に2段ダーリントンと3段ダーリントンの歪率比較を掲載します。

 

 

A.出力端子から見た内部抵抗は2段では約1.2Ω、3段では約0.5Ωになりました。

 

ダンピングファクターで言えば2段では約6.7であったものが約16になりました。

 

 

3.出力点直流電圧

 

出力点直流電圧の変動は増幅後段の上段と下段の温度の違いが原因らしいと分かりました。

 

最終的には上下段一体型の放熱器を付けましたが、サーモパイプ(ヒートパイプ)による均一化も実験しました。

 

次に実験的にサーモパイプを付けた時の写真を掲載します。

 

 

その時の電圧変動の測定結果が次の図です。

 

  

 

これを採用しても良かったのかも知れません。

 

 

4.次に得られたポイントを記すことにします。

 

@.電圧増幅段の電源を安定化電源にして、出力の大小による電源電圧変動を原因とするアイドリング電流の変動を抑えなくてはならない。

 

A.微少なアイドリング電流というB級動作はそれだけで歪発生の原因になるので、AB級にならざるを得ない。

 

B.アイドリング電流設定回路には徹底的なマイナス温度特性が必要である。

 

C.大きな放熱器を使って余裕ある温度設計をするべきであったと思いますが、究極的な温度対策まで達することが出来たとも言えるかも知れない。

 

 

☆.電源回路

 

@.LとRを別々のトランスにするとか、トランスは1個でも2次巻線は別々にするとか、電源を強化する方法はありますが、ステレオアンプで特に重要なチャンネルセパレーションはそれだけで達成出来るものではないと思います。

 

今回はトランス1個、整流器と電源電解コンデンサーは1組で作りましたが、チャンネルセパレーションは他の電源強化法と同等であると思います。

 

A.200V耐圧のショットキーダイオードを採用して整流パルスノイズを出さない電源を作りました。

 

B.メインアンプの増幅段用の電源回路にツェナークランプリップルフィルターを採用しました。

 

C.プリアンプ用の電源回路にはツェナークランプ+RCフィルター+ダーリントン接続のTRでほとんど完璧なリップルフィルターを作りました。

 

 

☆.部品について

 

@.ボリューム

 

音量ボリュームにはアルプス電気の高級ボリュームを使いましたが、空気の出入りがあるので、シリコンで充填しました。

 

 

 

A.スピーカーリレー

 

金メッキ接点のスピーカーリレーがパナソニックの生産終了により変わりました。

 

新製品は金メッキより金が薄い『金フラッシュ』です。

 

真空管OTLアンプの時のもの(左側)と今回のもの(右側)の比較写真を掲載します。

 

 

なお、金メッキまたは金フラッシュ接点のリレーはこの会社以外には見つかっておりません。

 

 

B.普通のヒューズの溶断特性

 

次にある会社の普通型の5Aのヒューズの溶断特性を紹介します。

 

 

5Aの2倍の10Aでは約1秒で溶断するのが分かります。

 

 

C.ノーヒューズブレーカー(NFB)

 

本当はF級のノーヒューズブレーカーを使いたかったのです。

 

その根拠であるM級とF級の遮断特性のグラフを紹介します。

 

 

F級なら2倍の電流では約1秒で遮断するのが分かります。

 

 

D.家電用ヒューズと車載用ヒューズ

 

 

同じ5Aでこの様な太さの違いがあるのです。

 

溶断特性は規格で決まっていますので同じです。

 

音に対しては如何でしょうか。

 

 

E.足

 

 

本機の足です。

 

材質は少し弾力のあるゴムです。

 

オーディオ界には固い足を好む傾向がありますが、筆者は若干弾力のあるもので、外部の振動を少し和らげるほうが良いのではないかと思っています。

 

 

※.完成した形と結果についてはMJ無線と実験2022年8〜11月号の連載をご覧頂きたいと思います。

 

 

連載は終わりましたので、ご意見を頂ければ幸いです。

 

 

 

 

 

                             以上

 

 

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