冒頭の写真は今回改修した金田式MOSFET・DCアンプです。
このアンプの正確な名称は『DCアンプシリーズNo.164 大電流型MOS−FETパワーアンプ』で、無線と実験2001年9月号の記事を元に製作されたもののようです。
次の写真はこのアンプの元になった記事の書かれている『無線と実験』2001年9月号のカラーページです。
ところで、2019年8月、ある人から上記アンプの改修依頼がありました。
状況をお聞きしたところ、前記の金田式DCアンプのいわゆるキットを2006年12月に購入して、組み立てたが不動作で完成しなかったとのことでした。
また、回路図(当該記事のコピー)はあるとのことでした。
そこでアンプと回路図をお預かりして調査検討し、実質約2ヶ月をかけて回路変更を含む改修をしました。
主な改修点は下記の通りです。
1.メインアンプ
@.アイドリング電流を正しく設定出来る為の定数変更
A.アンプ機インジケータ駆動回路の変更
B.抵抗不良品の交換
C.100kHzのF特修正の為のコンデンサ追加
2.保護回路
(1).DC検出回路
@.組立用図面ミスの修正
(2).制御回路
@.+電源側MOSFET駆動回路修正
A.インジケータ駆動回路修正
B.スピーカーリレー追加
3.電源回路
@.大電解コンにディスチャージ抵抗追加
では、順に説明をします。
1.メインアンプの改修
先ず、このアンプのメインアンプ部分の原典の回路図を掲載します。
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チェックしたところ大問題という事はありませんでしたが、上記回路図中に赤文字で示した箇所に部品不良を含む小さな問題点が散見されました。
そこで下記のように変更しました。
@.3.9kΩではアイドリング電流が正しく設定出来ないので3.3kΩに変更。
A.アンプ機のスイッチがOFFでもTR6またはTR7のゲートからソースへ通り抜ける電流によりLEDが半点灯するので、43kΩをツェナーダイオード(1Z75)+10kΩに変更。
具体的には、ゲート・ソース間に実際値約29Vのツェナーダイオードが等価的に存在するので、パネル面スイッチがOFFでもゲート電圧が約75Vとするとソースには約46Vが現れ、680Ω、3.9kΩ、半固定VR、43kΩを通してLEDに約0.9mAの電流が流れ半点灯するのです。
そこで、便宜的に75Vのツェナーダイオードを入れて半点灯電流を止め、スイッチON時の電流を当初の電流2.3mAに近い値にするために抵抗を10kΩにしたのです。
B.出力MOSFETのソース抵抗0.1Ω(セメント抵抗)が抵抗値過大からOpenに至ったと見えたので交換。
C.100kHzのF特修正の為PP(ポリプロピレン)コンデンサ100pFを追加。
原特性と改修後の特性は後記する特性図をご覧ください。
(1).改修後の回路図
改修後のL−CHの回路図を掲載します。
図中の記載電圧は実測値です。
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(2).改修後の基板写真
改修後のL−CHの基板写真を掲載します。
写真中の@〜Cが変更した箇所です。
(3).周波数特性
先ず、元の周波数特性を掲載します。
元の特性は100kHzが上がっていますので、さらなる高域でピーク特性になっていると推測します。
次に改修後の周波数特性を掲載します。
100kHzをわずかに落とすことにより、ピーク特性を回避出来たと思います。
途中の周波数で若干の上下がありますが、最大で0.03dBですから問題にはならないでしょう。
(4).出力対歪率特性
先ず、元の1kHzの出力対歪率特性を掲載します。
次に、元の20Hzと20kHzの出力対歪率特性を掲載します。
LもRも最初は30W出なかったのです。
Lはその後0.1ΩがOpenになり、抵抗を変えた後、50W出ました。
Rはその後何もしないのに50W出るようになりました。
次に改修後の1kHzの出力対歪率特性を掲載します。
次に改修後の20Hzと20kHzの出力対歪率特性を掲載します。
高域補正の100pFは歪率には影響がなかったようです。
性能の表示は63W/8Ωですが、前記特性図のような低歪率で50Wの出力が確認出来たので、それ以上の確認をする必要はないと考えました。
2.保護回路の改修
(1).DC検出回路の改修
先ず、保護回路のDC検出部の回路図を掲載します。
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DC検出部の回路図には問題はないと思います。
しかし、組立用の図面に大変なミスがありました。
次に原図に裏の配線を加えたものを掲載します。
前記の回路図と照合すると分かりますが、赤矢印で示すTr3とTr4が逆なのです。
次に正しい配置に直した組立用の図面を掲載します。
赤文字で示すTr3とTr4が正しい配置です
これを修正しない限り、このアンプは正しく動かないでしょう。
(2).保護回路制御部の改修
先ず保護回路制御部の元の回路図を掲出します。
赤が大問題の部分です。
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制御部には1つの大きな問題点と2つの小さな問題点を含んでいます。
@.+電源側の直列MOSFETは本来はPチャンネルのMOSFETを使うべきところ、Nチャンネルを使っている為に回路設計ミスを誘発し、結果としてゲート・ソース間で大変な規格オーバーをしています。
具体的にはゲート・ソース間電圧は常に±20V以内でなくてはならないところ、ゲートをアースに落としてOFFさせているので瞬間的にゲート・ソース間に実際値−39Vと言う電圧がかかり、多数回の繰り返しにより、ついには破壊に至るものと考えます。
MOSFETがショート破壊すればお客様の大事なスピーカーを破壊するのです。
肝に銘じて設計しなければならないところです。
改修方法は後出の回路図にて示します。
☆.なお、前記した通り、本来的には+電源にはPチャンネルのMOSFETを使うべきところですが、PチャンネルはON抵抗が大きいので例えば2SJ607(TO220ルネサス旧NEC)を2本並列にすれば2SK2554とほゞ同等になります。
A.プロテクタインジケータを4011Bで直接ドライブしているので、許容電流(4mA)を超えています。
大きな問題ではありませんが、直列抵抗を大きくして許容電流内に収めました。
B.ユーザーに対する最大の安全策であるスピーカーリレーを使用していません。
別途後述します。
次に改修後の回路図を掲載します。
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@.上図のTR1、TR3-1、TR3-2とその周辺部分が改修後の+B制御回路です。
4011Bの11ピンでなく、その反転の10ピンから駆動します。
A.4011Bの11ピンから大きくした抵抗を介してLEDを駆動します。
次に改修した保護回路制御部基板の部品配置図に配線図を重ねたものを掲載します。
次に改修した保護回路制御部基板の写真を掲載します。
B.スピーカーリレーはアンプ機の+B電圧(実際値39V)を利用して簡易的な入れ方をしました。
スピーカーリレーには接点が金メッキであるものを使用しました。
パナソニック製ですが、既に生産を終了しています。
代替品は見つかりませんが、今のところ筆者が4回路ものを4個所持しています。
次にリレーと直列抵抗(合計約390Ω8W)の載った配線済みの基板の写真を掲載します。
写真には見えませんが、リレーの逆起電力消去のためのダイオードも付いています。
次に基板を裏返しにして、保護回路検出部の基板の上に取り付けた写真を掲載します。
当機は電源スイッチOFFから約4秒後に若干のPOPノイズが出ますが、リレーは約2.5秒後にOFFするので、POPノイズは聞こえません。
3.電源回路
この電源には大電解コンにディスチャージ抵抗が全くついていないので、電荷の放電に非常に長い時間を要します。
なので、適切な値かどうかは別にして抵抗を付けました。
次に抵抗を書き加えた回路図を掲載します。
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次に取り付けた部分の写真を掲載します。
先ず+電源の右側です。
次は−電源の左側です。
☆.最後に
改修の最後に試聴を行いました。
結果ですが、なるほどこれがMOSFETの音か、と言うところです。
超低域のパワー感は金田式DCアンプの特徴のままです。
以上
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