☆.このページは2017年5月に完成した40W・ACアンプ編です。
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さて、トップの写真はLR各々40W/8Ω(歪率2%)の真空管OTLアンプ(メインアンプ)です。
利得は約23dBですので、入力1250mVで出力40W=約17.9Vになります。
シャシーは2つに分かれていて、左がL−CH、右がR−CHです。
電源スイッチは左だけにあり、右は同時にON−OFFします。
電源のインジケーターは両方に付けました。
左右両端に並ぶ青い円筒形はB電源用の電解コンで各々4,700μF250Vです。
中央手前の伏せ型のものは左右各々の増幅回路用電源トランスです。
トランスの後方に真空管メインアンプがあります。
さらに2つのシャシーを後方の電源ケーブルで接続します。
次に後から見た写真を掲載します。
大出力の主役である出力管6C33C−Bがはっきりと見えます。
また、出力管に近い電源電解コンを出力管の膨大な熱から守る為にアルミ板を立てました。
シャシーは左がR−CH、右がL−CHで、手前の側面が背面パネルに相当します。
左の背面パネルには左からACインレット、R−CHのスピーカー端子、同入力レベルセットボリューム、同入力端子が並びます。
右の背面パネルには左からL−CHの入力端子、同入力レベルセットボリューム、同スピーカー端子、プリアンプ用のACアウトレット、R−CH用のACアウトレット、全体のACインレットが並びます。
次にアンプの裏側(シャシー内部)の写真を掲載します。
写真上部のヒータートランスは出力管のヒーター電力が大きいので左右兼用にはならず別々になりました。
写真下部の中央寄りにLとRの大きな信号回路基板があります。
LRの信号回路基板のすぐ上には電源突入電流緩和回路(Lのみ)とプロテクター回路の載る基板があります。
トランスの横には各チャンネル用の電源回路基板があります。
そして、左端の最上部に電源スイッチがあります。
電源スイッチは(株)日幸電機製作所製のNFB(ノーヒューズブレーカー)型電源スイッチで特性はFです。
過電流に対する遮断速度を普通ヒューズと同等にするにはF特性 が必要です。
次の写真は大出力の主役である真空管6C33C−Bです。
このような球が旧ソ連の戦闘機に搭載されていたとは驚きです。
☆.動機
何故このようなものを作るに至ったか、その動機ですが、筆者は学生時代に白黒テレビの水平出力管25E5(ヒーター電圧25V)を用いて真空管OTLを作った経験があり、それをもう一度作りたいと考えたのです。
今から50年も前の事ですが、当時これが流行したのです。
当時のラジオ技術とか無線と実験(MJ)というような技術系の雑誌にも製作記事がありました。
ただし、200〜400Ωというハイインピーダンススピーカーを対象とするもので、8Ω負荷では1Wも出ないものでした。
でも、それなりに音は出ました。
☆.加銅鉄平氏のOTL
これをラジオ技術の2014年のある月例試聴会でつぶやいたところ、ある方から良い資料があるとのことで、無線と実験の2002〜2004年の加銅鉄平氏の記事(合計54ページ)のコピーを取らせて頂きました。
次に出力管が2パラになった記事のトップ部分を掲載します。
出力管を2パラのモノラル機にして実用的な出力(27W/CH at 8Ω)を出すことが出来たとのことです。
ここに使用されている出力管26HU5(ヒーター電圧26V)はカラーテレビの水平出力用として作られたものとのことです。
☆.回路
今回参考にした加銅氏の回路図を掲載します。
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先ず、この回路を参考にしてEL509という球を使いアンプを作ったところ出力は10Wだったのです。
そして、2015年5月のラジオ技術誌主催の音の展覧会で発表させて頂き、良い音との評価を頂きました。
しかし、このような大きさでわずか10Wの出力では何とも寂しい思いがありました。
しかしながら、メインアンプを作った次にするべき事はプリアンプ(テーマ12)なので、先ずはプリアンプを作ることを主眼にしましたが、同時並行的にメインアンプの大出力化の検討を進めました。
☆.コンセプト
製作するにあたっての着眼点は次のようにしました。
1.電源トランスや電源電解コンデンサーは10Wの時から変更せずに大出力化する。
2.NFを十分かけてダンピングファクターの向上を目指す。
☆.回路について
1.増幅回路
次にL−CHの増幅回路図を掲載します。 R−CHは省略します。
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増幅及び位相反転は加銅氏の意見に従いSRPPにし、等価的には高抵抗負荷でも送り出しインピーダンスの低い回路としました。
初段は12AT7というその昔高周波用と言われたものを使いましたが、オーディオ増幅用と言われている12AX7と較べると増幅度は約0.7倍ですが周波数帯域が広く、最適負荷抵抗値が1/4になるので加銅氏の意見に従い12AT7にしました。
10Wの時と較べると、5687だった2段目+位相反転段も12AT7にした事で8Ω負荷無帰還利得が35dBから43.5dBに上がり、十分なNFがかけられるようになりました。
これによりダンピングファクターが5から11.4に上がり、内部等価抵抗も1.6Ωから0.7Ωに下がりました。
また、出力段だけでなく、2段目もグリッド電流の流入を抑制する為に直列抵抗R15=1kΩを入れました。
加銅氏は出力段は上段と下段は利得が異なるので、出力から2段目に見かけ上のPFBをかけることにより同等化したとのことです。
筆者はC09、C11とR25によるブートストラップにより上段と下段の動作を共にプレートフォロアーにして同等化する方法にしました。
VR03は微妙に異なる上段と下段の利得を調整するものですが、1Wに満たない小出力時の歪率が最小になるように調整します。
また、音質対策として電源以外のマイラーコンデンサーをポリプロピレンコンデンサーに、電圧の足りる部分は電解コンとマイラーコンの並列でなく音質対策電解コンにしました。
次にL−CHの基板表面の写真を掲載します。R−CHは省略します。
真空管アンプの場合、通常的にはラグ端子を用いて部品の配線をしますが、今回は真空管ソケット間の部品や配線を除き基板上に配置し、コネクターで結合するようにしました。
2.電源回路
トランスはRコアですが、このトランスの利点はメーカーのホームページに書いてありますから省略しますが、欠点は電源ON時の突入電流が大きい事と交流片側負荷に弱いことで、ともにトロイダルトランスと同様です。
この為、メインアンプなどに使用する大きなトランスの場合は突入電流緩和回路が必要な事と、2次側に半波整流を避ける必要があります。
整流器はメイン電源用も含めて全てファストリカバリーダイオードです。
これはいわゆる整流パルスの発生を最小化して、僅かですがジー音の混入を防止するためです。
歪率波形中に出てくるジー音は消去コンデンサーでも取れますが、ファストリカバリーダイオードならコンデンサーは不要になります。
電源回路の構成は基本的には10W機と同じですが、出力管に合わせたバイアス電圧に変更する必要があります。
最初に6C33C−Bの静特性を掲載します。
この図から、プレート電圧220Vではグリッドバイアスが−90Vでプレート電流が約100mAになると推測しました。
バイアス電源は両波倍電圧整流にして−90Vを作ることにしました。
両波型の整流にすることにより、巻線の向きを考える必要がなくなりました。
次にL−CHの電源回路図を掲載します。
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次にL−CHの基板表面の写真を掲載します。R−CHは省略します。
3.電源突入電流緩和回路
トロイダルトランスやRコアトランスは電源ON時の突入電流が大きいので、直列抵抗と遅延回路で緩和します。
抵抗で押さえた突入電流は10A、遅延時間は約3〜5秒です。
先ず、突入電流緩和回路と後述するL−CHのプロテクター回路が一緒になった回路図を掲載します。
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突入電流緩和回路は回路図の上段部分で、『ヒータートランスのV01、V03用巻線』と書いてある部分より上の部分です。
最大突入電流はR51により10Aとなり、遅延時間はR55とC51で決めていますが、電源電圧の立ち上り遅延も加わります。
MOSFETを使ったのは約4VでONするからで、トランジスターですと0.6V、ダーリントンにしても1.2Vですから電解コンの容量を比較的小さく出来ます。
R−CHについては突入電流緩和回路はなく、プロテクター回路のみになります。
4.プロテクター回路
トランジスタアンプであれば通常的にはプロテクター回路は動作せず、万一、パワーTRなどが故障した時にスピーカーを守るものです。
電源ON−OFFについてはONから数秒後にリレーON、OFF時には瞬時にリレーOFFだけなのでプロテクターのお世話になると言うほどのものではありません。
この為、トランジスタのB−E間電圧約600mVで動作させるのが普通です。
しかしながら真空管OTLでは電源ON時に30秒〜1分程度の遅延が必要です。
それなら1分後にONすれば良いのかというと必ずしもそうも言えません。
真空管のバラツキによっては2分も3分もかかることがあります。
また、真空管特有の難しい理論は別にしても、熱関係による不安定で出力点DC電圧はあまり安定とは言えません。
かと言って、DCサーボと言うような回路を付加した場合、それによって音質が変わる可能性があるのでとりあえず付けたくないと考えました。
この為、300〜400mVでプロテクターが動作するようにしました。
8Ωと400mVによる電力は約20mWで、スピーカーのコーンは多少動きますが、長時間その電圧であっても心配はないと思います。
電源ONと動作開始後にOFFになった後の復帰には30秒程度の遅延をさせますが、それはR23とC03によります。
スピーカーリレーのOFF側にも8.2Ω5Wの抵抗がつけてありますが、真空管OTLは開放時と負荷時で出力点直流電圧の変動が大きいので負荷を同等化する必要があるからです。
電源ON−OFF時に1V程度の電圧がこの抵抗にかかりますが、その時の電力は125mWですから、抵抗焼損の心配はないと思います。
次の写真の白線より左側が突入電流防止回路で、右側はL−CHのプロテクター回路です。
☆.全体回路図
全体回路図をBMPとPDFで掲載します。
1.L−CH
回路図は縮尺されていますが、図中で右クリックして、更にボタン操作をしてダウンロードするとA4で見る事が出来ます。
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2.R−CH
回路図は縮尺されていますが、図中で右クリックして、更にボタン操作をしてダウンロードするとA4で見る事が出来ます。
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☆.測定データ
1.周波数特性
周波数特性はダンピングファクターやNF量が推測出来るようにいろいろな条件で測定しました。
次に利得周波数特性を掲載します。
次に拡大した周波数特性を掲載します。
2.歪率特性
先ず1kHzの歪率を掲載します。
次に20Hzと20kHzの歪率を掲載します。
☆.音質について
2017年5月の音の展覧会、および2019年1月の江川工房に出品しまして好音質との評価を頂きました。
☆.スピーカーケーブル
さて、スピーカーケーブルですが、世の中には色々とケーブルが出ています。
次に音質改善策として和紙並行ケーブルの写真を掲載します。
元の線材は30A撚線ACケーブル(5.5sq)で、細線φ0.32の銅線を各々約30本を撚り合わせています。
合計の断面積は2.4平方ミリメートル(2.4sq)ですので、15A用の撚線、2.0sqより太く、SPケーブルとして十分な太さがあると思います。
線間距離は20〜30mm、絶縁、保護用の材料は和紙です。
端末付近のほんの短いところは別にして、ビニール等の石油合成系の材料は使用しておりません。
長さは2mです。
線間容量は測るまでもないと思い、測っておりません。
なお、撚線ACケーブルに20A用(3.5sq)を使うと細線がφ0.25になり、音質改善効果がかなり低下しますので注意が必要です。
☆.最後に
真空管OTLで40W/8Ω/CHというものが出来ました。
大パワーの持つゆとりと迫力を兼ね備え、OTLの特徴である超広帯域の好音質のアンプになったと思います。
以上
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