当機はメインアンプなので、ソースプレーヤーやプリアンプ、スピーカーは筆者常用のものを使って試聴しました。
このアンプの正確な名称は『DCアンプシリーズNo.169 6C33C−Bハイブリッドパワーアンプ』で、無線と実験2002年8月号に掲載の記事を元にしたキットメーカーのキットを購入して製作されたもののようです。
次の写真はこのアンプの元になった記事の書かれている『無線と実験』2002年8月号の表紙とカラーページです。
ところで、2020年1月末、ある方から修理依頼がありました。
状況をお聞きしたところ、前記の金田式DCアンプのTS社製のキットを購入し製作し使用しているが、安定して動作せず、手におえないとのことでした。
そこでアンプをお預かりして検討し、約1ヶ月をかけて回路変更を含む改修をしました。
☆.筆者は約2年前に同様の改修をしているのですが、今回のものはTS社製のキットを使用しているので、たくさんの方々の参考になるようにしたいと考え、このページを全面的に書き換え、このページの通りに作れば出来上るようにしました。
主な改修点は下記の通りです。
1.メインアンプ
☆.増幅段TRの損失の適正化
@.増幅段の+B電圧を下げる
A.ツェナーダイオード6本/CH追加
B.TR計6本/CHの品種変更
2.保護回路
☆.保護回路の破壊はあってはならない。
@.+電源側MOSFET駆動回路変更
(MOSFETが破壊している場合の代替品を提示)
A.スピーカーリレー追加
B.インジケータ駆動回路の定数変更
3.電源回路
☆.整流器の長大なリバース・リカバリー・タイムに起因する整流パルスの低減
では、順に説明をします。
1.メインアンプの改修
先ず、このアンプのメインアンプ部分の原典の回路図を掲載します。
赤が大問題の部分、橙が中問題の部分です。
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次に、ここに使われているTR等の損失の表を掲載します。
赤が大問題の部分、橙が中問題の部分です。
前記表1の最右欄『最大損失』とは無限大放熱器を付けて常温(25℃)内に置いた場合の許容損失です。
同表の損失欄の数字に色をつけましたが、小型の放熱器を付けた程度で、真空管の熱が伝わる環境下では、このように大きな損失を与えるべきではないと考えます。
そもそも1750mWが限界と称するTRに1906mWの消費とはもっての外です。
そこで調べたところ同じ記事の中に損失について考慮された回路(1995年12月号)が掲載されていましたので、次にそれを掲載します。
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自らが正しい方法を過去に実践していながら、それを実行し続けないというのは理解に苦しむところです。
注 2021年11月、ある方から情報を頂き、当回路の2段目部分は動作条件により、破壊に至るとのことです。
筆者が『正しい方法』と述べたのは上図の青色部分だけです。
ご注意頂きたいと思います。
本文に戻りまして、本機の電源トランスには+DC50〜70Vの電圧を作る為の巻線がありませんので、現在の高電圧から抵抗で落とすことにしました。
熱の分散です。
また、2018年に改修した機器において熱疲労を起こしていたTR(今回は分からない)は品種も含め変更することにしました。
TRの品種選択は許容損失、許容電流の点でより適正またはより大きなものとしました。
前回使用の品種には入手困難なものがあり、必要に応じて変更しました。
ここで、改修後のシャーシ裏面の写真をご覧ください。
基板が3枚追加されて、一部に振動時の当たり止めのクッションが貼りつけてあります。
また、写真には見えませんが、右のサイドシャーシの内側には数本の電線が通っておりますので、組立時には注意が必要です。
(1).改修後の回路図
先ず、改修後の回路図のL−CHを掲載します。
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☆.当回路図には金田式のMFB回路は記載しておりませんが、実際には手を加えておりません。記載するスペースがないだけです。
TRが変わると出力管バイアス電流調整用抵抗を変える必要があるかも知れません。
電流調整半固定VR500Ωで調整し切れない場合はその下の2.2kΩを適宜変えてください。
また、F特は完全平坦でなく、100kHzがわずかにマイナスになるようにしました。データは後出。
結果として損失の大きなTRはなくなり、最大でもひとつの目安である500mWを下回るようになりました。
他の部品の損失も許容損失に対して十分な余裕を持っています。
(2).組立用の基板図面
今回は基板内の改版図面を出しますので、参考にしてください。
図面にはいろいろな色を付けて見やすく、区別しやすくしました。
当初の図面とは色、接続が多少変化していますが、内容に変化はありません。
先ずアンプ基板の部品面(表面)です。
直線曲線計4本の赤い線は部品面を使ったジャンパー線です。
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次はアンプ基板の銅箔面(裏面)です。
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次はアンプ基板の裏面に結線する為の図面です。
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次は+B電圧を下げるための基板の部品面、銅箔面、結線の図です。
この部品面図は配線が透視図式になっていますが、筆者のパターン図設計法です。
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(3).改修後の基板写真
先ず、改修後のL−CHのアンプ基板と電圧降下基板の写真を掲載します。
次に、L−CHのアンプ基板と電圧降下基板の取り付け配線後の写真を掲載します。
基板と基板の間には6mm高さオスメスのスペーサーが入っています。
電圧降下基板の右端には振動時の当たり止めのクッションを貼ります。
次に、R−CHのアンプ基板と電圧降下基板の取り付け配線後の写真を掲載します。
アンプ基板の左側にあるのは保護制御回路に追加したリレー基板です。
電圧降下基板の右端とサイドシャーシの間には振動止めのクッションを貼ります。
電圧降下基板の電解コンの右端とサイドシャーシの間には数本の電線が通りますので、あらかじめスペースを確保する留意が必要です。
2.保護回路の改修
先ず、このアンプの保護回路のDC検出部の回路図を掲載します。
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DC検出部には問題はないと思います。
次に保護回路の元の制御部の回路図を掲出します。
赤が大々問題の部分です。
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制御部には1つの大きな問題点と2つの小さな問題点を含んでいます。
@.+電源側の直列MOSFETは本来はPチャンネルのMOSFETを使うべきところ、Nチャンネルを使っている為に回路設計ミスを誘発し、結果としてゲート・ソース間で大変な規格オーバーをしています。
具体的にはゲート・ソース間電圧は常に±20V以内でなくてはならないところ、ゲートをアースに落としてOFFさせているので瞬間的にゲート・ソース間に−150Vを超える電圧がかかり、多数回の繰り返しにより、ついに破壊に至るものと考えます。
このMOSFETは電源スイッチをON−OFFする度に動作しますので、その度に絶対最大定格を破っているのです。
MOSFETがショート破壊すればお客様の大事なスピーカーを破壊するのです。
肝に銘じて設計しなければならないところです。
±20V以内という絶対最大定格は書いてない規格表もあるかも知れません。
しかし、この値は全てのMOSFETに共通する規格で、瞬間的と言えども破ってはいけないものです。
実力値は電圧値の大きいNチャンネルでも±40Vもありません。
改修方法は後出の回路図にて示します。
A.ユーザーに対する最大の安全策であるスピーカーリレーを使用していません。
2018年に改修した機器の故障の最終的な原因が+電源側の直列MOSFETがショートして、出力点に直流が出たので、そう言わざるを得ないのです。
B.プロテクタインジケータを4011Bで直接ドライブしているので、許容電流(4mA)を超えています。
大きな問題ではありませんが、オーバーはオーバーです。
(1).改修後の回路図
次に改修後の回路図を掲載します。
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@.上図のTR1、TR3-1、TR3-2とその周辺部分が改修後の+B制御回路です。
ただし、4011Bの11ピンでなく、その反転の10ピンから駆動します。
A.4011Bの11ピンからTR6、TR7を介してスピーカーリレーをドライブします。
なお、スピーカーリレーには接点が金メッキであるものを使用します。
回路図中のものはパナソニック製ですが、生産終了です。
今のところ、代替品は見つかりませんが、筆者が4回路ものを3個所持しています。
前記の@を実行すれば保護回路が逝く事はないと思いますので、リレーは無くても良いかも知れません。
ただ、筆者にはその勇気はありません。
B.4011Bの11ピンから2.2kΩを介してLEDの+へ接続し、−は0V(アース)へ接続します。
(2).組立用の基板図面
先ず保護制御基板の部品面(表面)です。
4011Bの10Pと13Pを結ぶ赤い線は部品面側で結線ハンダ付けして接続するところです。
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次は保護制御基板の銅箔面(裏面)です。
Tr3−2のコレクターから出ているピンクの曲線は銅箔面側で単線を使って結線ハンダ付けするところです。
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次は保護制御基板の裏面に結線する為の図面です。
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次はリレーを駆動するための基板の部品面、銅箔面、結線の図です。
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(3).改修後の基板写真
先ず、改修後の保護制御基板とリレー基板の写真を掲載します。
今回は手持ちの関係でリレー基板にICピッチの基板を使いましたので、前記のリレー基板図面とは異なります。
次に、L−CHのアンプ基板と電圧降下基板の取り付け配線後の写真を掲載します。
なお、スピーカーへの結線はアンプの+出力⇒リレー⇒スピーカーの+端子ですが、リレー部分はリレーの端子に直接ハンダ付けしました。
3.電源回路の改修
電源回路に使用しているブリッジ整流器は導通から非導通に切り替わる瞬間に長大なパルスを出すタイプのものです。
これを幾ばくかでも低減させるために次に示すコンデンサを付けました。
今回は0.1μF630Vを付けましたが、0.22μF630Vの方がより適切かと思います。
次に周辺の回路図を掲載します。
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次に取付け状況の写真を掲載します。
4.測定データ
今回は改修前のデータが取れませんでしたので、その分については2018年の改修前のデータを掲載します。
@.周波数特性
先ず、2018年の改修前のR−CHの周波数特性を掲載します。
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元の特性は100kHzがわずかに上がっていますので、さらなる高域でピーク特性になっていると推測します。
次に改修後の周波数特性を掲載します。
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100kHzをわずかに落とすことにより、ピーク特性を回避しました。
なお、LとRに少し差がありますが、増幅段用の−Bの電源基板の位置とアンプ回路基板の位置が対称でなく、しかも送り配線である為ではないかと思います。
A.出力対歪率特性
先ず、2018年の改修前の出力対歪率特性を掲載します。
なお、回路および出力管の破損を避ける為に測定は10W迄としました。
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+B電圧が必要以上に高く、F特が伸び過ぎているくらいなので、一見歪率は優秀です。
次に改修後の1kHzの出力対歪率特性を掲載します。
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つぎに改修後の20Hzと20kHzの出力対歪率特性を掲載します。
なお、回路および出力管の破損を避ける為に測定は20W迄としました。
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5.改修用部品表
改修のために買い足した部品ですが、価格は参考値で、交通費や送料は含まれていません。
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☆.最後に
改修の最後に試聴を行いましたが、2018年に初めて聞いた金田式DCアンプというものの音を再び聞くことが出来ました。
超重低音の迫力はあの時圧倒されたのと同様でした。
我が家で常用のA−10WのDCサーボを外してDCアンプにする決断をし、実行してあります。(A−10W 改造記)
そちらの試聴の結果でも同様の効果を得ています。
金田式アンプの基本であるDCアンプは非常に素晴らしい発想であると思います。
以上
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