トップの写真は2019年7月に研究を終了した真空管プリアンプの正面の写真です。
真空管は前の4本が2段NF型のトーンコントロールが使用可能な中間アンプで最前部が初段です。
また、後の4本がNF型のイコライザで最後部が初段です。
さらに、左右の列は左がL−CH、右がR−CHです。
シャーシ上の左側は電源トランスで、Rコアです。
前面に並ぶスイッチやツマミは左から電源スイッチのNFB(ノーヒューズブレーカー)、BASS、TREBLE、VOLUME、SELECTORです。
SELECTORは3接点で、左からTAPE(AUX)、CD、PHONO(MM)です。
次に後ろから見た写真を掲載します。
左側にピンジャックの入出力があり、右側はACインレットです。
ピンジャックは左からPHONO入力、CD入力、TAPE入力、REC出力、PREAMP出力です。
また上段がL、下段がRです。
次にシャーシ内部の写真を掲載します。
シャーシ内部は上が背面側、下が前面側、左半分が信号基板、右が電源基板です。
回路の大部分は基板上に形成して真空管や他の部分とはコネクター経由で接続しています。
電源基板は開発の最後の方でトーンアンプ(中間アンプ)の出力段を電流の流せる球5687に変えたためにオーバーマウントになりました。
☆.シールド
2016年5月に開催されたラジオ技術・音の展覧会に出品したところ、LED天井照明内蔵のスイッチング電源からと思われる電磁波飛びつきがありまして、10kHz程度のピー音がありました。
この為、事後対策ではありますが、表題部分とその次の写真のように真空管にシールドキャップをつけました。
シールドが必要なのは最前部のトーンアンプ(中間アンプ)初段だけですが、揃える為にすべての真空管にかぶせました。
さらに電磁波の周り込にも対応する為、ボトム側にも次のようなシールド板をつけました。
シールド板上の黒いものは振動止めのスポンジです。
2つの穴ですが、トーン回路を使う⇔使わないの切替スイッチが奥にあります。
☆.動機とコンセプト
真空管OTLに続くものを作ろうと真空管プリアンプを考えたのですが、先人達の作品に共通するのはNFなしのアンプでCRまたはLCRの減衰回路でRIAAイコライザを作るという方法でした。
先人達と同じ事をしても同じ結果しか出ないと考えNF式で出来ないかと検討し、結果として非常に高度な音質に到達出来たので、発表することにしました。
開発の途中経過もあるのですが、最後の結果だけを説明します。
☆.PHONOイコライザーアンプ
MM型またはVM型、MI型のカートリッジをNF型のイコライザで35.5dB/1kHz増幅します。
1.増幅回路
基本的な回路構成は2段アンプで初段も後段もSRPPです。
初段の真空管は12AX7と相当品で北京真空管公司製の6N2と比較したところ、6N2にはゴロゴロノイズがないので6N2にしました。
また、ノイズ選別が必要と予測したので、安価な点も魅力でした。
後段の真空管は5極3極の複合管で、6GH8です。
増幅側に5極管を使ったのは12AU7並に電流を流しながらも利得が取れるからです。
次に完成品になった4回目の回路図を掲載します。
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2.測定データ
先ず利得周波数特性を掲載します。
次にRIAA偏差の図を掲載します。
次に1kHzの出力電圧対歪率特性を掲載します。
次に20Hzと20kHzの歪率特性を掲載します。
☆.S/N比は標準的なMMカートリッジの基準出力5mVに対して、Aカーブ挿入で約77.5dBです。
☆.トーンアンプ(中間アンプ)
1.増幅回路
トーンアンプでは、PHONO出力、AUX入力である150mVからメインアンプ入力である1V前後まで増幅し、同時にトーンコントロールを含みます。
トーンコントロールは筆者のこだわりである2段NF型で、ボリュームを使う場合はCカーブという音量用のカーブであるAカーブとは逆のカーブになります。
しかし、Cカーブの2連ボリュームはデジキー以外では入手不可能なので11接点のロータリースイッチを使うことにしました。
使用する真空管ですが北京真空管公司製で初段が6N2(12AX7相当)、後段が6N3(12AU7相当)でスタートしました。
回路設計はほとんどパソコンでおこない、最後に少しだけ実測による補正をしました。
組み上げた後試聴をしましたが、フラットではわずかに残ったF特のうねりが音質に影響を与えることが確認できたので、やむなくデフィートスイッチを付けました。
つまり、イコライザで入念に作ったRIAA偏差による音作りを最後の出力まで生かさなければならないと考えたからです。
ところで、2017年2月、プリアンプはメインアンプとの接続があるので、出力段は電流の流せる球が良いのではないかとの意見がありました。
そこで6N3を5687に変更し、プレート電流を10mA流すようにしました。
次に6N3(左)と5687(右)を並べた写真を掲載します。
5687は研究テーマ11(真空管OTL、出力10W編)で使用していた球で40W編に変更するときに役目を終了していたので手持ちがありました。
次に1CH分の回路図を掲載します。
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回路は図の上半分が増幅部で、特徴的なのは初段の定数で、カソードアース間の抵抗が100kΩになっています。
100kΩというような高抵抗にしたのはここにトーンコントロールのボリューム部分が並列に入るからです。
差動アンプにしてNF側のグリッドにボリュームをつける方法もあろうかと思いますが、パソコン解析でも実働チェックでも問題がなかったので差動にはしませんでした。
回路図の下半分のコントロール部を見るとボリューム代わりのロータリースイッチの両端のさらに外側にR33、R55、R61、R83(Rは+1の偶数)が余分についている事が分かります。
これは特性カーブがなるべくきれいに並ぶための補正ですが、それでもBASS、TREBLE共に変化量は100Hzと10kHzで±10dBあります。
2.測定データ
先ずトーンコントロールの特性図を掲載します。
次にTONE DEFEAT時の中間アンプとしての利得周波数特性を掲載します。
次に拡大した周波数特性を掲載します。
トーンコントロール使用時の回路安定度の為に高域のNF量が多くありません。
この為に100kHzの落ちがやや多くなっています。
1kHzの利得は18.4dBですので150mV入力で1250mV出力となります。
次に1kHzの歪率特性を掲載します。
次に20Hzと20kHzの歪率特性を掲載します。
20kHzの歪率が1kHzと比べて見劣りしますが、6N2(12AX7)は高域特性が元々伸びてないこと、さらにトーンコントロール使用時の回路安定度の為、NF量がことのほか少ない為と思います。
しかし、ダイナミックレンジとしては1kHzと変わりなく、メインアンプと接続すれば1500mV以下でしか使われませんので、問題は少ないと思います。
☆.増幅回路基板
次にイコライザ回路とトーンコン回路を1枚に載せたプリント基板の表面の写真を掲載します。
上半分がイコライザ回路、下半分がトーンコントロール回路です。
後からDEFEAT SWITCHを追加した為にそのスイッチをパネル面につけることが出来ず、基板の表面に小さなスライドスイッチを付けました。
☆.トーン・デフィート(中間アンプ)
読者からトーン・デフィート専用回路の要望がありましたので、1CH分の回路図を掲載します。
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☆.電源回路
電源回路は真空管は使わず全て半導体です。
5687を採用したために回路電流、ヒーター電流ともに増加しました。
先ず、B電源用の平滑回路はイコライザ用とトーンアンプ用を別々にしまして、ともに高耐圧のMOSFET(2SK3407)と220Vのツェナーダイオードを使ったリップルフィルタです。
FETには放熱用のアルミ板を付けましたが、本来はもっとスペース余裕を持って放熱器を正しくつけるべきであったと思います。
さらに、負荷電流の増大で電圧が降下したので電解コンを増やしたのですが、プリント基板の面積が不足したのでプリント基板からはみ出た電解コンを結束バンドで抱合せました。
ヒーター電源ですが、5687は交流点火とし、他の真空管を直流点火としました。
こちらは負荷の球は減ったのですがリップル対策を真面目にしたところ、大容量電解コンを追加することになりました。
☆.2019年、このプリアンプにMCカートリッジを繋げて聞いたところ、未だヒーター電流にリップルが残っていることが分かり、さらなる対策をしました。
その結果、ボリュームを上げさえすればDENONのMCカートリッジを入力トランス無しで聞くことが出来るようになりました。
☆.2020年4月、MOSFET使用の定電圧型リップルフィルターに問題点が発見され、対策しました。
次に回路図を掲載します。
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次にプリント基板の表面の写真を掲載します。
☆.電源スイッチと電源トランス
電源スイッチは(株)日幸電機製作所製のNFB(ノーヒューズブレーカー)型電源スイッチで特性はFです。
過電流に対する遮断速度を普通ヒューズと同等にするにはF特性が必要です。
電源トランスは(株)フェニックス製です。
いずれも研究テーマ11と同様です。
☆.全体回路図
次に最終的な全体回路図を掲載します。
回路図は縮尺されていますが、ダウンロードするとA4で見る事が出来ます。
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☆.接続ケーブル
さて、機器と機器の間はケーブルで接続しますが、ケーブルによる音質変化があり、線径と線間容量、絶縁物の諸特性が問題のようです。
次に音質改善策としてラジオ技術で習得した方法を基に作った超低容量の和紙並行ケーブルの写真を掲載します。
元の線材は30A撚線ACケーブル(5.5sq)で、細線φ0.32の銅線を信号線は3本、アース線は5本を撚り合わせています。
線間距離は12〜15mm、絶縁、保護用の材料は和紙です。
端末付近のほんの短いところは別にして、ビニール等の石油合成系の材料は使用しておりません。
長い方は1.5mで、例えばCDプレーヤとプリアンプを繋ぐところ用、プリアンプとメインアンプの接続用に使う短い方は1mです。
線間容量はどちらも約20pFです。
しかし、並行ケーブルは外部からの飛び付きに弱いため、プリとメインの接続用にはシールドを被せる事にしました。
被せる前にビートチェックしたところ、中間アンプ初段ほどではないですが、飛び付きが確認されたのです。
次に同軸ケーブル5CFBから外した網線を被せたシールド付き和紙並行ケーブルの写真を掲載します。
線間容量は約40pFです。
和紙ケーブルは石油合成系の絶縁物を使わないのが第1の目的ですが、シールドを付けても容量は通常のシールド線の半分以下です。
なお、撚線ACケーブルに20A(3.5sq)を使うと細線がφ0.25になり、音質改善効果がかなり低下しますので注意が必要です。
☆.最後に
ポリプロピレンコンデンサ、音質対策電解コンを多用したこと、メインアンプに信号を送り出す出力管に電流を多く流せる球(5687)を採用したことなどにより、想像以上の好音質になったと思います。
以上
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