ゲートドライブの方形波はトランスの1次側のMOSFETをドライブする方形波から作ります。
そして、1次側のMOSFETがONした後に2次側のMOSFETがONし、1次側のMOSFETがOFFするより前に2次側のMOSFETをOFFする、つまり、整流開始時と整流終了時はダイオードの状態であるのが良いと考えました。
この様子を次のオシロ画面で示します。
画面の上段は2次側MOSFETのゲート、下段は1次側MOSFETのゲートです。
画面の左右両端に横軸を1μSに拡大した立ち上がり部と立ち下り部を入れました。
TLP250には遅延時間があるので同期整流開始はタイミング調整をしなくても自動的にトランス出力よりゲートの方が遅くなります。(0.1μS)
また同期整流終了はTLP250の遅延も見込んで先に終了させます。(0.6μS)
このタイミング調整を回路図中のD951、D952のカソード側のR951、R952、C951、C952によって行っています。
☆.デッドタイム
上記の付加によって1次側のデッドタイムも変動しますので、周辺定数は総合的に検討して決定しました。
最終的には回路図記載の定数でデッドタイムは1.5μSとなっていて、トランスの励磁方向を反転する時の限界である0.9μSに対して0.6μSの余裕をみる事としました。
この様子を次のオシロ画面で示します。
上段もOFF、下段もOFFという時間が1.5μSあります。
実は、デッドタイムは少なければ少ないほど効率としては高いのです。
これは効率向上の為には注意する必要があります。
トランスの駆動方式をシングルつまり励磁ON 励磁OFFとするより、プッシュプルつまりプラス励磁 マイナス励磁とする方が効率が高い事は知られています。
ですからプッシュプルにしたのですが、方形波の場合はどうしても反転時にプッシュとプルが共にOFFの時間、つまりデッドタイムが必要となります。
そこで、その限界を求め、それに安全余裕を加えました。
さらに、デッドタイムを1サイクル中のパーセントとして低くするためには駆動周波数を下げるのが良い、ただし、コアと巻き数を勘案して、となります。
その結果として駆動周波数を可聴周波数よりやや高い21kHzにしました。
発振回路用のICは494ファミリーの中でデッドタイムを小さく出来るNECのμPC494Cを採用しました。
☆.1次側AC100Vの同期整流
方形波電源では前記したような固定的なタイミング設定で同期整流が出来ましたが、AC100Vでは使えないのです。
理由は正弦波の場合、通過電力によって整流器の導通角が変わるからです。
また、波形平坦の瞬間はありませんから、導通している時間以外はOFFでなければなりません。
つまり、正弦波の同期整流では導通角と導通タイミングに追従して整流用MOSFETのON時間とタイミングを変化させる必要があります。
☆.整流電流検出と増幅
そこで方法としては整流器であるMOSFETの通過電流を検出して、ある程度以上の電流が流れている間だけMOSFETをONすれば良い筈と考えました。
同時に、小電流では必ずしも同期整流である必要はないと考えました。
電流を検出する方法は検流器などの電流検出素子を使う方法もありますが、電流波形は単純な交流正弦波ではありませんし、回路構成によっては片方向の電流しかない事もあります。
そこで、今回は線路に10mΩを入れ、この両端に発生する電圧を増幅する方法としました。
もちろん、これによる効率低下もありますが、100V1000W中の10mΩは0.1%の効率低下(1W)にとどまるものと言えます。
ただし、仮に最大出力(1000W)の1/10出力(100W)程度から同期整流化しようとすれば、検出電圧は正弦波であれば実効値でわずかに10mVrmsですから40dB増幅しないと1Vrmsにならない訳です。
実際の電流波形は正弦波より尖った波形で、40dB増幅でアンプ出力のピーク値は5V前後となり、100〜150Wあたりから同期整流になりました。
しかし、今度は大電流の問題があります。
大電流では過大な電圧、例えば1000Wでは理想アンプならアンプからピーク値約50Vが出力する筈のところ、実際のアンプでは10〜15Vで飽和する事になります。
従って出力波形が飽和した後で下がってしまうような事がなく、ゼロが踊らないアンプである必要があります。
この為、アンプには5532と言うオペアンプを採用しました。
また、電流を検出する方法としては整流器の入力側で検出する方法と、整流器の出力側の脈流のところで検出する方法が考えられます。
名称としては整流器の入力側で検出する方法をFF(Feed Forword、前に送る)型、出力側で検出する方法をFB(Feed Back後ろに送るつまり前に戻す)型としました。
☆.FF型
FF型では電流検出とアンプがAC100Vの一方のライン上の1点を基準点として動作します。
この1点の入力側に検出抵抗10mΩを入れて電流を検出し、この1点の上にアンプとアンプ用の独立電源を置きます。
検出出力とアンプ出力は交流出力ですが、ソース電位やタイミングの異なる4つのMOSFETをドライブする為に光結合としました。
つまり、2次側と同じTLP250の採用です。
そして、TLP250のMOSFETドライブ側の電源の作り方は2次側と同じブートストラップです。
ブートストラップ用の元の電源はコンバータ回路をドライブするための電源を用いました。
☆.FB型
FB型では電流検出とアンプは整流器であるMOSFETの出力側、脈流出力のマイナス側に入れました。
従って基準点も直流出力のマイナス側です。
プラス側で検出する事も可能ですが、今回は省略しました。
ブリッジ整流ですから電流検出は両方向の電流を検出する為に2つ必要で、各々がタイミングの異なる出力をします。
これをFF型と同様に40dB増幅しますが、電流検出が2つなのでアンプも2つです。
基準点を脈流出力のマイナス側にしたので光結合の必要はなく、D級アンプ用のドライバでMOSFETをドライブ出来ます。
ドライブ電源の作り方もD級アンプと同じブートストラップです。
☆.次はFF型とFB型の100W時の検出アンプ出力波形です。
各画面の黄色の大きな正弦波はAC100Vです。
☆.FF型
☆.FB型
FF型では100Wで既に同期整流が始まっているようですが、FB型では始まっていないようです。
FF型の波形がとがっているのがそれを示しています。
☆.次は1000W時のアンプ出力とAC100Vの波形です。
☆.FF型
☆.FB型
☆.その次にFF型の100W時と1000W時のゲートドライブ波形とAC波形を示します。FB型は省略。
☆.100W時
☆.1000W時
100W時と1000W時を比較すると、ゲートパルスの幅が大きく変化していて、導通角の変化に対応している事が分かります。
また、AC100V波形に載ったゲートパルスは回路図のTr911のゲート波形です。
0〜12V程度のゲートパルスがブートストラップによってAC100Vのトップ電圧の上に持ち上げられた事を示しています。
☆.最後に
ここで発表した回路を個人的に利用する事は差し支えありませんが、事業に採用する場合は筆者と契約頂きますよう、お願い致します。
また、この回路は回路素子の保護が十分でない可能性がありますが、それについては採用者の側で十分な吟味と対策をお願いします。
以上
☆.追加論としてトランスの巻線方法について記載しました。
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